名古屋高等裁判所 昭和59年(ラ)111号 決定
四 当裁判所の判断
1 民訴法三〇条一項による移送申立について
相手方が訴状において相手方所有の意匠権の侵害行為と指称する本件タオルが、原裁判所の管轄する名古屋市内においても販売されていることは、抗告人の自認するところである。そうだとすれば、その販売量の大小に拘わらず名古屋市は民訴法一五条の不法行為の行為地に該当するから、同条により、原裁判所は本訴につき管轄権を有するといわなければならない。抗告人主張の応訴の不便等の諸事情は民訴法三一条の移送を考慮する原因となるは格別、同法一五条の解釈論として導入することは、不法行為地が一見明瞭にはきまらないことになり、訴訟遅延の原因になるなど別の弊害も考えられるから採用に由ないものである。よつて、原裁判所が管轄権を有しないことを前提とした抗告人の移送申立は理由がない。
2 民訴法三一条による移送申立について
本件記録によれば、本訴の原告たる相手方(本店)の住所は東京都千代田区、被告たる抗告人の住所は静岡県富士市にあること、相手方は原裁判所の管轄区域内に支店を有しているが、抗告人はかかる営業所を有さず、名古屋市は抗告人にとつては単に抗告人製造の本件タオルがたまたま販売された地にすぎないこと、しかも抗告人の主張によれば本件タオルは東京はじめ全国各地で売られているのであり、名古屋市における販売は割合的にも少部分であることが認められる。
右事実と相手方の本訴請求の原因をあわせ考察すると、本訴は意匠権の侵害訴訟であるから、最も基本となる証拠は意匠登録原簿、意匠公報(甲第一、第二号証)と本件タオルであるところ、本件タオルに関する人的物的証拠は原裁判所でなければ証拠調が困難だとか不便だといつた事情は認められないし、抗告人が本件タオルを製造販売していること自体は抗告人主張の趣旨からみて抗告人もあえて争わないものとみられる。それに意匠法上の過失の推定(四〇条本文)、損害額の推定(三九条一項)などを加味して考えると、相手方主張の諸事情を考慮してもなお、本訴はむしろ抗告人側に比較的重い立証の負担がかかつていると推測されるのである。そうすると、抗告人申請予定の証拠が必ずしも全部取調の必要があるかどうかはともかくとしても、その大部分は抗告人の住所ないしその付近を中心とした証拠方法に依存しなければならないことになる。これに対し、名古屋市は相手方の本店所在地でもないから、損害額の認定などについても、原裁判所で証拠調をすることが相手方にとつて特に便宜だとは考えられない。
かようにみて来ると、本件訴訟は被告である抗告人の住所地であると同時に、証拠方法の点でもそれが最も多く存在するものと解せられる富士市を管轄する裁判所をして審理せしめるのが、「著キ損害又ハ遅滞ヲ避クル為」必要と解せられるから、抗告人の民訴法三一条による移送の申立は理由がある。但し、右富士市を管轄する裁判所は静岡地方裁判所富士支部であるが、同支部は乙号支部であるから、本件訴訟の性質、相手方らの交通の便等を考慮し、本庁たる静岡地方裁判所に移送するを相当と認める(抗告人は沼津支部への移送を求めているが相手方の便宜等からむしろ本庁を相当と考えるものである)。
3 以上のとおりであるから、原決定を取り消し、本訴を民訴法三一条に基づき静岡地方裁判所に移送することとし、抗告費用の負担について民訴法九〇条を適用して主文のとおり決定する。
〔編註その一〕 本件における主文は左のとおりである。
原決定を取り消す。
本件訴訟を静岡地方裁判所へ移送する。
抗告費用は抗告人の負担とする。